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大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)841号 判決

控訴人 仲川武雄

みぎ訴訟代理人弁護士 白井源喜

被控訴人(参加被告) 吉田一男

〈ほか一名〉

みぎ両名訴訟代理人弁護士 島秀一

参加原告 麻野夏子

〈ほか七名〉

みぎ参加原告八名訴訟代理人弁護士 白井源喜

主文

一、控訴事件について、

1、原判決を取り消す。

2、被控訴人仲川文子は控訴人に対し、別紙目録記載の各物件について、奈良地方法務局葛城支局昭和二七年七月二四日受付第一六〇八号をもってなした取得者を仲川文子(被控訴人)とし原因を昭和二五年一一月一六日遺贈とする各所有権移転登記を、取得者、仲川きくゑ、大西アサヘ、松田ミツヱ、仲川武雄、麻野夏子、仲川文子、友田宏、吉田久子および天野淳子とし、原因を昭和二七年一月二二日仲川安太郎の死亡による相続とし、各取得者の共有持分を仲川きくゑが三分の一、大西アサヘ、松田ミツヱ、仲川武雄、麻野夏子および仲川文子が各九分の一宛、友田宏、吉田久子および天野淳子が各二七分の一宛とする所有権移転登記、ならびに、仲川きくゑの各共有持分三分の一についての、取得者を大西アサヘ、松田ミツエ、仲川武雄、麻野夏子、友田宏、吉田久子および天野淳子とし、原因を昭和二七年四月四日仲川きくゑの死亡による相続とし、各取得者の取得した共有持分を、大西アサヘ、松田ミツヱ、仲川武雄、麻野夏子および仲川文子が各一八分の一宛、友田宏、吉田久子および天野淳子が各五四分の一宛とする共有持分の移転登記に改める更正登記手続をせよ。

3、被控訴人吉田一男は控訴人に対し、別紙目録記載の各物件について、奈良地方法務局葛城支局昭和三三年一月三〇日受付第三五二号による同被控訴人を取得者とし、原因を同日売買とする各物件全部についての所有権移転登記を、仲川文子の各共有持分六分の一についての共有持分移転登記に改める更正登記手続をせよ。

4、控訴人のその余の請求を棄却する。

二、独立当事者参加事件について、

参加原告らの申出を却下する。

三、訴訟費用は、控訴人と被控訴人らとの間に生じた分は、第一、二審を通して四分し、その一を控訴人の、その一を被控訴人吉田一男の、その二を被控訴人仲川文子の各負担とし、参加原告らと被控訴人らとの間に生じた分は参加原告らの負担とする。

事実

(当事者の求める裁判)

控訴代理人は、第一次的申立として、「(一)原判決を取り消す。(二)控訴人に対し、被控訴人仲川文子は別紙目録記載の各物件についての奈良地方法務局葛城支局昭和二七年七月二四日受付第一六〇八号所有権移転登記の、被控訴人吉田一男は同各物件についての同支局昭和三三年一月三〇日受付第三五二号所有権移転登記の、各抹消登記手続をせよ。(三)被控訴人吉田一男は控訴人に対し別紙目録記載の家屋を明け渡せ。(四)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする」との判決ならびに(三)(被控訴人吉田一男に対する家屋明渡しの請求)について担保を条件とする仮執行の宣言を求め、第一次的申立第二項が認容されない場合の予備的申立として、主文一、2・3項同旨の判決を求め、

被控訴代理人は、控訴事件について、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との、独立当事者参加事件について、「参加原告らの訴を却下する。訴訟費用は参加原告らの負担とする。」との各判決を求め、

参加原告らの代理人は、被控訴人らに対する請求として、第一次的に、「各被控訴人は参加原告らに対し、それぞれ、控訴人の第一次的申立(二)記載の各抹消登記手続をせよ。被控訴人吉田一男は参加原告らに対し控訴人の第一次的申立(三)記載の家屋を明け渡せ。訴訟費用は被控訴人らの負担とする。」との判決およびみぎ(三)の家屋明渡しの請求について担保を条件とする仮執行の宣言を求め、みぎ第一次的請求が認容されない場合の第二次的請求として、「各被控訴人は参加原告らに対し、それぞれ、控訴人の第二次的申立記載の各更正登記手続をせよ。」との判決を求めた。

≪以下事実省略≫

理由

一、控訴事件について。

1、本件各物件の所有権の帰属について。

本件各物件がもと訴外亡仲川安太郎の所有に属していたことは当事者間に争いがない。そして、当事者間に争いがない控訴人および被控訴人仲川文子が訴外亡仲川安太郎と同亡仲川きくゑとの間の子である事実、≪証拠省略≫を総合すると、訴外亡仲川安太郎(昭和二七年一月二二日死亡)の相続人らおよび訴外亡仲川きくゑの相続人ら、ならびに各相続人のみぎ各相続における相続分が控訴人主張のとおりであることを認めることができる(その後、本訴係属中にみぎ訴外人両名の三女訴外松田ミツヱの失そう宣告((昭和三五年一月二五日の失そう宣告により昭和三三年九月三〇日死亡とみなされた))があって、同訴外人の相続人らが相続した((本件各物件について相続により取得した持分は夫楢三郎一八分の一、悦子、澄子、潔、および俊章各三六分の一である))ことを認めることができる。)。そうすれば、仮に訴外亡仲川安太郎の生存中の贈与もしくは死因贈与または本件公正証書をもってする遺贈により被控訴人仲川文子が本件各物件の所有権を単独で取得した旨の被控訴人らの抗弁が認められないとすれば、本件各物件は、訴外仲川きくゑの死亡後訴外松田ミツヱ死亡までは、訴外大西アサヘ、同松田ミツヱ、控訴人、訴外麻野夏子(参加原告)および被控訴人仲川文子が各六分の一宛、友田宏、吉田久子および天野淳子(三名とも参加原告)が各一八分の一宛の各持分で共有していたことになるわけである。

そこで、被控訴人仲川文子が訴外亡仲川安太郎の生存中同訴外人から本件各物件を贈与もしくは死因贈与を受けた旨または本件公正証書をもって遺贈を受けた旨の被控訴人らの抗弁について判断するに、≪証拠省略≫によると、被控訴人仲川文子が本件各物件を訴外亡仲川安太郎から遺贈されたのを知ったのは、同訴外人の死後本件遺贈公正証書があることを大西米造から知らされた時がはじめてのことであって、同訴外人の生前には同訴外人から被控訴人仲川文子に本件各物件等を贈与または死因贈与する旨の直接または間接の意思表示があったことはなく、まして被控訴人仲川文子が同訴外人に対して贈与または死因贈与を受諾する意思表示などをしたことはもとよりなかったことが認められ、当審における被控訴人本人尋問の結果中被控訴人仲川文子が訴外亡仲川安太郎生存中同訴外人から口頭で本件各物件等の贈与または死因贈与を受けて、同訴外人に対してみぎ贈与または死因贈与を受諾した旨の供述があるけれども、みぎ供述は後記認定のように本件公正証書をもってする遺贈に遺言方式上の瑕疵があることが判明した後になされたものであることは本件訴訟の経過に徴して明らかであるので、みぎ各供述と反対の趣旨の前記各証拠と比較して措信することができない。そのほかには、みぎ贈与または死因贈与に関する被控訴人らの抗弁事実の存在を証明する証拠はない。

訴外亡仲川安太郎が昭和二五年一一月一六日奈良地方法務局所属公証人吉田律役場において同公証人に委嘱して甲第二号証の公正証書正本の基本である公正証書を作成したことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によると、訴外亡仲川安太郎はみぎ公正証書をもって被控訴人仲川文子に対し奈良県北葛城郡王寺町大字王寺三、六九八番地の一地上、家屋番号同所第二五二番店舗の内、一、木造瓦葺平家建物置一棟建坪一四坪三合一勺一、木造瓦葺平家建営業所一棟建坪一一坪〇合七勺。同所三、六九八番地の一、一、宅地一〇七坪八合のうち、前記建物敷地および西南隅所在の土地九坪。一、煙草および文房具商品一切ならびにその営業権を遺贈したことと、みぎ公正証書の作成には訴外大西米造および同栩山孝行が証人として立会したこととが認められる。いわゆる遺言公正証書作成についての証人の立会は、公正証書作成の際に証人が作成場所に出頭して公正証書に署名捺印すること、ならびに、証人らがみぎ公正証書が公証人によって遺言者の意思どおりのものに作成されていることを確認した上で署名捺印することを要するのであるが、証人らがみぎ公正証書作成時に作成場所で公正証書の読み聞け等によってみぎ事項を確認した上で公正証書に署名捺印した以上、公証人が遺言者の供述を録取する現場に証人らが立会っていなくても、必ずしもみぎ公正証書が証人の立会なしで作成されたものであると云うことはできない。≪証拠省略≫によれば本件公正証書の作成に当っては、訴外大西米造外一名の証人が公証役場に出頭してみぎ公正証書に署名捺印した以上、みぎ証人として確認すべき事項を確認した上で署名捺印したものと認めるが相当であって、たまたま公証人が遺言者の供述を録取する現場にみぎ証人らが在席していなくても同証人らがみぎ確認をした上でその場で公正証書に署名捺印すれば、みぎ公正証書の作成に証人らの立会がなかったと云うことはできない。そして≪証拠省略≫を比較対照すると、みぎ遺贈の目的物である各不動産は本件各物件および同所三、六九八番地の六宅地九坪(二九・八一平方メートル)であることを認めることができる。

そこで、本件公正証書の効力について判断するに、みぎ公正証書の作成に証人として立会した証人の一人である訴外大西米造は遺言者訴外亡仲川安太郎の長女大西アサヘの夫であることは当事者間に争いがないから、民法九七四条三号所定の証人欠格事由ある者に該当すること明白であって、このような証人欠格事由のある者を証人として立会させて作成された遺言公正証書は遺言としての効力を持ち得ず、したがって、被控訴人仲川文子はみぎ公正証書をもってする遺贈によって本件各物件等の遺贈目的物についての所有権を単独で取得することはできなかったわけである。みぎ公正証書の効力に関する被控訴人らの主張は、独自の見解であって採用できない。

被控訴人らはみぎ公正証書をもってする遺贈は贈与または死因贈与と解することができると主張するが、遺贈は単独行為であって必ずしも相手方に対する意思表示を必要としないところ、贈与は契約の一種であるから贈与者が被贈与者に対して贈与の意思表示をなし被贈与者が贈与者に対して贈与を受諾する意思表示をすることを必要とするので、前認定のように、訴外亡仲川安太郎が生存中に被控訴人仲川文子に対して本件各物件を贈与または死因贈与する意思を表示したことも、また同被控訴人が同訴外人に対して贈与受諾の意思表示をしたこともない本件の場合には、みぎ公正証書による遺贈を贈与または死因贈与があった場合に当ると云うことはできない。この点に関する被控訴人らの主張は採用できない。

以上のように、訴外亡仲川安太郎は被控訴人仲川文子に対して本件各物件を贈与または死因贈与したことはなく、また本件公正証書をもってするみぎ両者間の本件各物件の遺贈も無効であるので、本件各物件は、前述したように、訴外仲川安太郎の死亡およびその後における同仲川きくゑの死亡により、同人らの相続人であった前記の者らの共有に帰し(各相続人の相続分および本件各物件についての共有持分も前記のとおりである。)、訴外仲川きくゑの死亡後には、控訴人および被控訴人仲川文子は本件各物件についてそれぞれ六分の一宛の共有持分を有していたわけである。

被控訴人らは、みぎ各相続のあった後、被控訴人仲川文子が本件遺贈の目的物件以外の相続財産に対する相続分ないし共有持分を放棄する代償として、控訴人は明示的または黙示的に同被控訴人のみぎ遺贈目的各物件に対する単独相続ないし単独所有を承認し、みぎ各物件についての控訴人の共有持分を放棄喪失したと主張するけれども、被控訴人らの全立証によっても、被控訴人仲川文子がみぎ遺贈目的物件以外の相続財産に対する相続分ないし共有持分を放棄した事実も、また、控訴人が明示的または黙示的に被控訴人仲川文子の前記遺贈目的物件についての単独相続ないし単独所有を承認した事実も証明されていない。被控訴人仲川文子から前記西南隅九坪(二九・八一平方メートル)の土地を買い受けた第三者から控訴人がみぎ土地を買い戻した事実は、みぎ第三者との間にこのような和解契約を締結したことを意味するだけのことで、みぎ第三者以外の者との関係において、みぎ物件以外の遺贈目的物件について被控訴人仲川文子の単独所有を承認したものと解することはできない。被控訴人らのこの点に関する主張は理由がない。

次に被控訴人吉田一男の本件各物件についての所有権について判断するに、同被控訴人が昭和三一年一月末頃被控訴人仲川文子との間に本件公正証書記載の遺贈目的物件のうち西南隅の九坪(二九・八一平方メートル)の土地を除くその余の不動産全部と煙草および文房具販売の営業権(動産類については遺贈目的物件と多少相違があったと認められ、且つ本件に関係がないので認定から除外する。)を買い受ける契約を締結し、同月三〇日頃みぎ各物件の引渡しを受け、同時に本件各物件についてみぎ売買を原因とする所有権移転登記手続をしたことは、弁論の全趣旨に徴し当事者間に争いがないものと認める。そして、みぎ遺贈目的物件のうち西南隅の土地を除くその余の不動産が本件各物件に当ることは前認定のとおりであるから、被控訴人仲川文子と被控訴人吉田一男との間の前記売買の目的となった土地建物もまた本件各物件に当ることは明らかである。みぎ売買目的物件が本件各物件の一部を含んでいない旨の控訴人の主張は採用しない。

みぎのように、被控訴人吉田一男は、被控訴人仲川文子から本件各物件を買い受けたのであるが、前述のように被控訴人仲川文子は本件各物件について六分の一の共有持分を有していただけで、単独で所有権を持っていなかったのであるから、被控訴人吉田一男は、みぎ売買によって、被控訴人仲川文子が本件各物件について持っていた六分の一の共有持分を譲り受けて取得することができるだけで、たとえみぎ売買時に被控訴人仲川文子がみぎ各物件について単独で所有権を持っているものと信じそのように信ずるについて過失がなかったとしても、みぎ各物件について被控訴人仲川文子が持っていなかった権利までも取得することができないことは極めて明らかなことである(最判昭和三八年二月二二日民集一七巻一号二三五頁は共同相続人の一人は、他の共同相続人が相続不動産に勝手に単独所有権取得の登記をなし他に転売した場合には、持分の登記なくして転得者に対抗できると判示している。)。そして、被控訴人吉田一男がみぎ売買により本件各物件の所有権を単独で取得し得ると誤信してみぎ各物件を買い受けるに至った原因が、被控訴人仲川文子を取得者とする前記所有権移転登記にあるとしても、みぎ登記の抹消または更正登記手続は被控訴人仲川文子の協力を要し控訴人の独力でなし得ないところであるから、みぎ登記の存続を控訴人の怠慢であると非難する被控訴人吉田一男の主張は相当でない。いずれにせよ控訴人の本訴請求が権利の濫用に当る旨の同被控訴人の主張は独自の見解であって採用に価しない。

以上のように、被控訴人吉田一男は、前記売買によって、本件各物件について単独で所有権を取得することこそできなかったけれども、六分の一の共有持分を取得したのであって、前記のように本件各物件についてみぎ売買による所有権移転登記手続を受けたのであるから、みぎ各物件についての六分の一の共有持分の取得をもって控訴人その他のみぎ各物件の共有者らに対抗することができる。

2、控訴人の被控訴人らに対する請求の当否について、

共有者の一人は自分の共有持分権に基づいて共有者全員のために単独で共有物の保存行為をすることができる。そして、共有不動産について共有者の一人が単独で所有権を取得した旨の不実の登記がある場合には、他の共有者は、共有不動産の保存行為として(すなわち数人の他の共有者がある場合には単独で)、みぎ不実の登記の権利者に対し、みぎ登記をみぎ共有不動産についての実体上の権利関係に一致するように改めるための登記手続を請求することができるのであるが、みぎ不実の登記は全部が不実であるのではなく、その登記の権利者である共有者の持分に関する限りでは共有不動産についての実体上の権利関係に一致する登記部分があるわけであるから、他の共有者はみぎ登記上の権利者に対してみぎ登記の全部を抹消除去する抹消登記手続を求めることはできない(前掲最高裁判決参照)。みぎの場合に登記上の権利者以外の共有者が登記上の権利者に対して有する登記手続請求権は、不実の登記を共有不動産についての実体上の権利関係に一致する真正な登記に改める更正登記手続の請求権である(大判大正一〇年一〇月二七日民録二七輯二〇四〇頁参照)。

そして、数人の相続人が共同相続した不動産につき、相続人の一人が単独で(または相続人のうちの一部の者のみが)所有権を取得した旨の所有権移転登記がされている場合、ないし、さらに、みぎ登記上の権利者から第三者が所有権の譲渡を受けその旨の所有権移転登記がされている場合に、みぎ登記上権利者と表示された相続人以外の相続人(以下登記上の権利者でない相続人と称する)がみぎ登記上の権利者らに対して有する共有物保存行為としての前記更正登記手続請求権の範囲は、単に請求者個人のための保存行為として自分個人の権利について実体上の真実に副う登記への更生登記手続を請求することができるに止るのではなく、登記上の権利者でない相続人全員のために、みぎ相続人ら各自の権利全部につきそれぞれ実体法上の権利の帰属に一致する登記への更正登記手続を請求することができると解するのが相当である。すなわち、この場合登記上の権利者でない相続人の一人が他の同様の相続人ら全員のために請求することのできる更正登記手続は、相続人の一人(または一部の者)のみを取得者とする所有権取得登記を相続人ら全員を取得者とし相続を原因とする各相続人の相続分の割合による共有持分での所有権取得登記に改め、さらに第三者を取得者とする所有権移転登記(または真の共有持分を超ゆる共有持分移転登記)をみぎ第三者を取得者とし実体上真実に移転した共有持分に限っての移転登記に改める更正登記手続である。けだし、不動産を共同相続した場合には相続人の一人は共有物の保存行為として共同相続人全員のために相続不動産について共同相続人全員を取得者として被相続人の死亡による相続を原因として各相続人の相続分の割合による共有持分での所有権取得登記手続をすることができるばかりでなく、いやしくも相続による所有権取得登記手続をする以上みぎ相続人全員のための登記でなければならないし、共有不動産の所有権を第三者が取得した旨の不実の所有権移転登記がなされている場合にはみぎ不動産の共有者の一人は共有不動産の保存行為として共有者全員のためにみぎ登記上の権利者に対してみぎ登記の抹消登記手続を請求することができるのであるから、みぎ抹消登記手続に代るものとして共有者の一人が登記上の権利者に対して共有物保存行為としての更正登記手続を請求することが許される以上、みぎ更正登記手続は当然に共有者全員のためにするものすなわち各共有者に帰属した実体上の権利を表示する権利変動の登記への更正登記手続であるべきであって、不実の登記部分を抹消しその代りに請求者自身の実体上の権利のみを表示した登記への更正登記手続を求め、登記を抹消された権利のうち請求者の権利に属しない部分の帰属を不明ならしめるような更正登記手続は許すべきではないからである。

本件の場合には、さきに判断したように控訴人は本件各物件について六分の一の共有持分を有する者で、被控訴人らもまたみぎ各物件について六分の一の共有持分を順次取得したものであるところ、本件各物件について、被控訴人仲川文子が前所有者訴外亡仲川安太郎の遺贈により、被控訴人吉田一男が被控訴人仲川文子との間の売買により、それぞれ単独で所有権を取得した旨の各所有権移転登記があることは当事者間に争いがないから、みぎ各登記は、各被控訴人が本件各物件について単独で所有権を取得した旨記載されている点ではみぎ各物件についての実体上の権利関係に一致していないけれども、各被控訴人が本件各物件について前記六分の一の共有持分を順次取得した範囲では真実の実体上の権利関係を表明しているわけである。したがって、みぎ各物件の共有者の一人である控訴人は、みぎ各登記上の権利者である各被控訴人に対し、各関係登記の抹消登記手続を請求することはできないけれども、被控訴人仲川文子および同人の持分を取得した被控訴人吉田一男を除く他の共有者全員のために各登記をそれぞれ実体上の権利変動に一致する真実な登記に改める更正登記手続を請求することができる。すなわち、本件の場合には、控訴人は、被控訴人仲川文子に対しては、同被控訴人を取得者とし遺贈を原因とする前記所有権移転登記を、訴外仲川安太郎の死亡による相続、ついで訴外仲川きくゑの死亡による相続をそれぞれ原因とし、さきに判示した各相続における各相続人を取得者として、さきに判示した各相続人が各自の相続分に相当する共有持分を取得した旨の前後二回に亘る所有権および共有持分移転登記に改める更正登記手続を、被控訴人吉田一男に対して、同人を取得者とする前記所有権移転登記を被控訴人仲川文子のみぎ各物件についての六分の一の共有持分を取得した旨の共有持分移転登記に改める更正登記手続を、それぞれ請求することができる。

なお、訴外松田ミツヱは昭和三五年一月二五日の失そう宣告により昭和三四年三月三〇日死亡したものとみなされた(訴外仲川安太郎の死亡した昭和二七年一月二二日および同仲川きくゑの死亡した同年四月四日のいずれよりも後のことである。)こと前認定のとおりであるが、本訴における控訴人の各被控訴人に対する抹消登記ないし更正登記手続の請求では、本件各物件についての訴外仲川安太郎および同仲川きくゑの各死亡時および被控訴人吉田一男の所有権の取得時における所有権移転関係の実体的真実に合致する登記への更正登記手続を請求しているに止まり、みぎ各物件についての現在の所有権の実体的帰属に合致する登記への更正登記手続、すなわち、前記各登記原因の発生後における訴外松田ミツヱの死亡による(同訴外人を被相続人とする相続による)本件各物件についての同訴外人の持分の同訴外人の相続人らへの帰属に合致する登記への更正登記手続までも請求しているものとは解することができない。よって、当裁判所は訴外松田ミツヱの死亡による相続を原因とする本件各物件についての所有権移転登記手続に関する裁判をすることは許されない。

もっとも、控訴人が予備的申立と称している更正登記手続の請求は、控訴人が原審以来請求している抹消登記手続の請求と同一の請求原因に基づく請求であって、しかも両者は質的に異る請求ではなく、量的に請求を減縮したに過ぎない関係にあるから、当然に控訴人のいわゆる第一次的請求中に包含され、予備的に請求される以上新な請求には当らない(最判昭和三八年二月二二日民集一七巻一号二三五頁参照)。したがって本件原審以来の登記抹消の請求は、みぎ更正登記手続を求める範囲で理由があり、その余は失当として棄却すべきものである。

つぎに、控訴人の被控訴人吉田一男に対する本件各家屋明渡の請求について判断するに、控訴人および被控訴人吉田一男が本件各物件についてそれぞれ六分の一宛の共有持分を有することは既に判断したとおりであり、被控訴人吉田一男が本件各家屋を占有使用していることは当事者間に争いがない。したがって控訴人の被控訴人吉田一男に対するみぎ請求は、共有者の一人が、共有者全員のための共有物保存行為として、共有物を単独で占有使用する他の共有者の一人に対し共有物の明渡を求める請求に当るわけである。

共有者は本来その持分の限度に応じて共有物を使用収益することができるだけであるから、他の共有者の協議を経ないで当然に単独で共有物を使用収益する権限を有しないけれども、共有物を単独で現実に使用収益している共有者は自分の持分に基づいて持分の限度内で共有物を使用収益する権利を持っているから、同人のみぎ共有物の現実の使用収益の全部を違法視することはできない。他面において、共有物を現実に使用収益している共有者以外の共有者らは、たとえ多数持分権者であっても、共有物全部の使用収益権を有するわけでなく、自己の持分の限度でみぎ権限を有するに過ぎないから、共有物を現実に使用収益している者がたとえ少数持分権者である場合にも、同人に対して共有物の明渡し(引渡し)を請求することはできない。このように共有者の一人が不当に共有物を使用収益している場合には、他の共有者は共有者全員の協議をもって使用関係を定めるか、協議が成立しない場合に分割の請求をするか、又は不当利得または不法行為として金銭的請求するかによるほかはない(最判昭和四一年五月一九日民集二〇巻五号九四七頁参照)。

本件の場合には、控訴人も被控訴人吉田一男も共に本件各物件の共有者の一人であって、同被控訴人はみぎ各物件を単独で占有使用している者であるから、控訴人は多数持分権の共有者らの支持がある場合であっても同被控訴人に対してみぎ各物件の明渡しを求めることはできない。よって控訴人の同被控訴人に対する本件各家屋の明渡請求は失当として棄却すべきものである。

二、独立当事者参加事件について、

本件控訴事件は、控訴人が本件各物件についての共有持分権に基づいて、みぎ各物件の共有者全員のための共有物の保存行為として、みぎ各物件についての登記上の権利者である各被控訴人に対して、各被控訴人を取得者とする各所有権移転登記の抹消(更正を含む)登記手続と、みぎ各物件の占有者(控訴人の主張によれば不法占有者)である被控訴人吉田一男に対して、みぎ各物件の一部である各家屋の明渡しとを請求している事案であるところ、本件参加原告らは、各参加原告がいずれもみぎ各物件についての共有持分権者であることに基づいて控訴人と同様の理由で各被控訴人に対して控訴人の場合と同一の抹消登記手続と家屋明渡との請求をすべく、みぎ控訴事件に対し民訴法七一条後段所定の独立当事者参加を申し出た。

民訴法七一条後段の参加は、訴訟の目的である権利の全部若くは一部が自己の権利であることを主張する第三者が、訴訟の当事者双方を相手方として訴訟に参加する場合の規定であるところ、本件控訴事件におけるいわゆる訴訟の目的である権利とは、本件各物件に対する控訴人の共有持分権にほかならないのに対して、参加原告らが参加原因として主張する各参加人に属する権利は、みぎ各物件に対する各参加原告自身の共有持分権であって、控訴人のみぎ各物件に対する共有持分権ではない。したがって、参加原告らは、いずれも、本件控訴事件の訴訟の目的である権利(すなわち控訴人の本件各物件についての共有持分権)の全部若しくは一部が自己の権利に属することを主張しているのではなく、みぎ控訴事件の訴訟の目的である権利とは全く別個の各参加原告自身の共有持分権に基づいて被控訴人らに対する請求をしようとしているのであるから、みぎ参加の申出は本件控訴事件に対して民訴法七一条後段所定の訴訟参加をするに必要な要件を具備していないわけである。すなわち参加原告らは、控訴人には本件各物件について共有持分権がなく、控訴人が有すると主張する持分権は実は参加原告に属するものであると主張して本件控訴事件に参加することは許されるけれども、控訴人にみぎ各物件についての共有持分権があることを是認しながら、各参加原告自身にもみぎ各物件についての持分権があるから同様の請求をすることができるとの理由で参加の申出をすることはできない。けだし、このような参加の申出は従前からの基本たる訴訟において訴訟の目的でなかった新な参加人らの権利の存否について訴訟参加によって裁判所の判断を求めようとするもので、このような基本である訴訟の目的である権利とは別個の権利の存否についての判断を求める訴訟は別訴をもって提起すべきで被告とすべき相手方が基本たる訴訟と同一人で請求する裁判が同種のものであるからといって訴訟参加をすることは許されないからである。

よって参加原告らの本件参加申出はその主張するところ自体によっても不適法なものとして却下を免れない。

三、結論

以上の理由により、控訴人の請求全部を失当として棄却した原判決は失当であるので取り消し、控訴人の請求のうち、各被控訴人に対し主文第二項記載の各更正登記手続を求める請求を正当として認容し、各被控訴人に対するその余の登記手続の請求および被控訴人吉田一男に対する家屋明渡の請求を失当として棄却し、参加原告らの参加申出を不適法として却下する。

よって民訴法三八六条九六条九二条八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宅間達彦 裁判官 長瀬清澄 古崎慶長)

〈以下省略〉

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